予算3万円台まで、日常使いに最適な3針クラシックウオッチ【手頃で良い時計購入指南|No.04】
時計の種類も様々だが、やはり1本は持っておきたいのが2針、3針をベースにしたスタンダードモデルだ。クロノグラフ、ダイバーズ系に比べて製造コストが低いため3万台までの価格帯ではラインナップが最も多い。今回は、オンオフ問わずに着けられる、クラシック系のモデルを紹介していく。
カジュアルウオッチのジャンルで、最も多彩なラインナップが展開されているのが、2針、3針をベースに、カレンダー機構などを搭載した3針の腕時計。あまりに数が多く、デザインのテイストも様々なのだが、全体を俯瞰すると、クラシックなデザインのモデルと、カジュアルデザインのモデルに大別することができる。
クラシックとは、おおまかには現代に継承される腕時計の基本となるデザインが完成した黄金時代、1950~60年代前後の時計をモチーフにしたデザインのこと。シンプルだが、立体的に仕上げたアップライトインデックス(バー、アラビア数字、ローマ数字と様々)、針(剣のようなフォルムが印象的なドーフィン針など様々)など古典的なエッセンスを取り入れているのが特徴となっており、オンオフを問わずに着けられる万能型のモデルと言える。
》好みに合わせて3つのデザインを選択可能
今回は、3万円台までの価格帯から、文字盤にレイアウトされたインデックスのデザインに注目してこの3針クラシックモデルをセレクト。“ローマ数字インデックス”、“バーインデックス”、“アラビア数字インデックス”と、三つのカテゴリーで紹介していく。
【ローマ数字インデックス採用モデル 】
上品さと格式を備えたドレス系デザインの代表
ローマ数字インデックスは、ここで紹介する三つのインデックスのなかでも、最も古典的な印象が強いデザインが特徴。高級時計ではシンプルな2針でローマ数字がドレスウオッチの基本スタイルとして定義されており、インデックスのなかでも格式の高いデザインとして認識されているためスーツスタイルとの相性も良い。左の写真は1960年代に製造されたアンティークウオッチ。アール・デコの影響を感じさせる少しモダンなフォントが採用されているのが面白い。
ROTARY(ロータリー)
ウィンザー
イギリス、ロンドンの事務所を拠点に、手頃な価格と確かな品質を両立したコレクションを展開するロータリー。新作のウィンザーは、現行のメンズモデルでは珍しい37mmの小振りなサイズ感、ギョーシェ装飾を施した文字盤に立体的なローマインデックスを配置した文字盤など、クラシックな佇まいが魅力的だ
■Ref.GS05420/01。ステンレススチールケース、レザーストラップ。ケース径37mm。日常生活防水。クォーツ(日本製)。3万6300円
【問い合わせ先】
イクスピアリ
TEL:047-305-2551
【公式サイト:ロータリー公式サイト】
【バーインデックス採用モデル 】
クラシックとモダンが同居するデザインが特徴
上の写真の時計は1960年代に製造されたオメガのアンティークウオッチ。懐中時計の時代から採用されているローマ数字インデックス、アラビア数字インデックスに比べると少し歴史は浅いとされているが、アンティークの高級時計にも多用されている定番デザインのひとつ。ローマ数字インデックスやアラビア数字インデックスに比べて装飾性が抑えられているため、現代的でモダンな印象を感じさせるのも特徴だ。
FHB classic(エフエイチビークラシック)
F901
FHBの創設25周年モデルとしてリリースされた数量限定モデル。丸みのあるクッションケース、外周のレイルウエイサークル、リーフ針と、クラシカルなディテールが程よい個性と落ち着いた雰囲気を両立している。オーセンティックなデザインをベースにしているが、ネイビーカラーを配した文字盤とバーインデックスを採用したことで、さりげなく現代的でスタイリッシュな雰囲気に仕上げられているのもポイントだ。
■Ref. F901-SVBL。SS(39mm径)。日常生活防水。クォーツ(スイス製)。3万6300円
レギュラーモデルとは異なるバーインデックスを採用。スモールセコンドに段差を設けたことで奥行き感が加わり、視認性も高められている
さりげなく存在感を主張する丸みのあるクッションケース。ドーム形風防との組み合わせがアンティークテイストを醸し出す
【問い合わせ先】
マーサインターナショナル
TEL:03-5541-0170
【公式サイト:エフエイチビークラシック公式サイト】
【アラビア数字インデックス採用モデル 】
軍用時計をはじめ幅広い時計に採用されたデザイン
ローマ数字インデックスと同じく懐中時計の時代から幅広い時計に採用されてきた古典的デザインだが、ドレスウオッチに採用されたローマ数字とは異なり、軍用時計や実用時計にも採用された歴史をもつ。そのため、エレガントな印象が強いローマ数字インデックス、シンプルなバーインデックスに比べると、カジュアルな雰囲気を感じさせるデザインと言える。上の写真は1950年代に製造されたティソ。夜光のアラビアインデックスが確認できる。
ORIENT(オリエント)
クラシック
2020年、ブランド誕生から70周年を迎えたオリエントのスモールセコンドモデル。サンレイダイアルにアプライドのアラビアインデックスとくさび形インデックスをレイアウトし、6時位置にスモールセコンドを配したクラシックな意匠がクラシックな雰囲気を醸し出す。薄めのベゼル、ボックス形のクリスタル風防を組み合わせた点も、クラシック感を高めているポイントだ。
■Ref.RN-AP0002S。ステンレススチールケース、レザーストラップ。ケース径40.5 mm。3気圧防水。自動巻き(Cal.F6222)。3万5200円
【問い合わせ先】
オリエントお客様相談室
TEL:042-847-3380
【公式サイト:オリエント公式サイト】
文◎船平卓馬(編集部)
初めて買うアンティークウォッチ、何に気を付ければいいの?〜ぜんまい知恵袋〜時計の疑問に答えます〜
Q:初めて買うアンティークウォッチ、何に気を付ければいいの?
主に以下の4つに気を付けてください。水と日光、磁気、そして衝撃です。きちんと修理をしたアンティークウォッチは、無理をしない限り、かなり長く使うことが出来ます。
2021年12月5日掲載記事
A:最も注意を払うべきは防水性能がない点です
現代の時計とは違う魅力を持つアンティークウォッチ。普通の人にはハードルが高そうに見えますが、少しだけ気遣いをすれば十分使えます。まず気を付けるのは、防水性能がまったくないこと。ロレックスのオイスターケースは水にも強いですが、数十年前のアンティーク時計は、たとえロレックスであっても、水に濡らさないほうがいいでしょう。
また、強い直射日光にもさらさないほうがいいです。文字盤の表面を覆っている透明なクリア塗装が劣化している場合が多いので、日光に晒すと文字盤が傷んでしまうのです。ただ、それよりも注意するべきは磁気帯び。今の機械式時計と違って、いわゆるアンティークウォッチは磁気に大変に弱いのです。スマートフォンや車のスピーカー、カバンを留めるマグネットなどに近づけると、修理費は高く付くでしょう。もし、これらの磁石が身近にある場合は、時計から5cm外すという習慣を付けてください。また、ほとんどのアンティーク懐中時計や1940年代以前の腕時計は、ショックを与えると壊れる場合があります。激しく動くと思ったら、時計を外しておくといいでしょう。
Photographs by Masanori Yoshie
十分な防水性能がなく、また日光にも弱いアンティーク時計にとって、どのように扱われてきたか、保管されてきたかがコンディションに直結する。逆を言えば日常から注意を払い、適切にメンテナンスを行えば、日常使いも問題なく必要できる上、よいコンディションを保つことができる。
修理をする際はケチらない
もっとも、気を付ければいいのはこの4点のみ。普通に過ごしている限り、アンティークウォッチに無理をかける心配は少ないと言えるでしょう。きちんと修理をしたアンティークウォッチは、無理をしない限り、かなり長く使うことが出来ます。なお、修理をする時は、修理費をケチらないこと。安くあげようとすると、結局高く付くことが多いのです。
ブレゲの懐中時計の代表作を解説。伝統が引き継がれるモデルも紹介
時計史に残る偉大な発明を数多く成し遂げているブレゲは、懐中時計でも名作と言われるモデルを製作している。ブレゲの歴史やモデルを語る上で、懐中時計は欠かせないキーワードと言えるだろう。過去の代表作や、伝統を受け継ぐモデルを紹介する。
時計師ブレゲと仏王妃マリー・アントワネット
アブラアン-ルイ・ブレゲの時計の信奉者であった、フランス王妃マリー・アントワネット(1755-1793)。
ブレゲの時計の熱烈な愛好者のひとりが、フランス王妃マリー・アントワネット(1755-1793)であった。彼女が宮廷を訪れるフランス内外の上流階級の客人にブレゲの時計を熱心に薦めたことで、ブレゲの評判はヨーロッパ、そして世界中に広まったのだ。
ブレゲの偉大な発明は、その多くがマリー・アントワネットに依頼された懐中時計の製作から生み出されているという逸話を持つ。当時の歴史を確認しておこう。
機械式時計の多くの原理をブレゲが開発
アブラアン-ルイ・ブレゲ(1747-1823)。腕時計製造における数々の開発や改良に成功し、時計の進化を2世紀早めたと言われる時計職人。
ブレゲの創業者であるアブラアン-ルイ・ブレゲ(1747-1823)は、現在の機械式時計に搭載されている多くの機構を発明し、天才時計師と謳われた人物だ。
ムーブメントが受ける重力の影響を最小限に抑える「トゥールビヨン」や、月末・うるう年の日数差を自動補正する「パーペチュアルカレンダー」は、歴史を変えた画期的な発明である。
1820年に販売された「No.3424」。歯車が左右対称に配置された1本針の懐中時計だ。
ほかにも、時計の精度を高める「ブレゲひげゼンマイ」(巻き上げヒゲゼンマイ)や、衝撃吸収装置の元祖とされる「パラシュート」など、時計製造に貢献した発明は枚挙にいとまがない。
ブレゲが開発したすべての機構を合わせると、現在の機械式時計の原理の約70%にも達すると言われている。
後に伝説と称される懐中時計を王妃が依頼
あらゆる複雑機構が盛り込まれた「No.160」、通称“マリー・アントワネット”。1983年に盗難に遭ったが、2007年にコレクターの蒐集品から発見された。
ブレゲを象徴する数々の発明は1783年、フランス王妃マリー・アントワネットの礼賛者を名乗る人物から懐中時計の製作を依頼されたことに端を発している。
その内容は「あらゆる高度な技術・複雑機構・機能を組み込んだ時計を製作してほしい」というものであり、時間と費用は無制限であった。
そうして、“マリー・アントワネット”の通称を持つ「No.160」が完成したのは1827年のこと。注文を受けてから44年後、王妃の死後からは34年後、またブレゲ自身も没してから4年の歳月が経っていた。
ブレゲの懐中時計
アブラアン-ルイ・ブレゲが手掛けた懐中時計の中には、レプリカという形で現代によみがえっているものがある。オリジナルを凌ぐ名作と評される時計を紹介する。
最高傑作とされるNo.160を再現した「No.1160 マリー・アントワネット」
マリー・アントワネットの礼賛者を名乗る人物から製作を依頼されたNo.160を精巧に再現した「No.1160 マリー・アントワネット」。
伝説の懐中時計No.160は、1983年にエルサレムの美術館から盗まれており、奇跡的な発見により2007年に戻ってくるまで、約25年も所在が不明であった。
2004年、ブレゲを傘下に収めていたスウォッチ グループ創業者であり、会長(当時)であったニコラス G. ハイエックは、No.160を完全再現したレプリカの製作をブレゲに命じた。
オリジナルがない状態で、技術者たちは残された資料のみを頼りに製作に取り組み、2008年に発表されたのが「No.1160 マリー・アントワネット」である。
最高傑作と評されるNo.160を原型とし、忠実に再現されたNo.1160は、べルサイユ宮殿にあったオークの木で作られた化粧箱に収納され、披露された。
スウォッチ グループが完全レプリカを作成した「No.5」
アブラアン-ルイ・ブレゲが製作した「No.5」は、自動巻き、クォーター・リピーター、パワーリザーブ表示、ムーンフェイズといった機能を備える。機能、デザイン、装飾の面でブレゲ・スタイルの原点と言えるモデルだ。
アブラアン-ルイ・ブレゲは1787年に、名作と謳われる懐中時計「No.5」を製作している。
ペルペチュエル(自動巻き)を搭載し、トック式のクォーター・リピーター機能が備わっている。手作業による機械操作で彫り込まれたギヨシェ模様やブレゲ針など、ブランドの特徴がちりばめられた傑作である。
機械式時計復活後のグランドセイコーで絶対に知っておくべき名作モデルたち
1992年にセイコーが自動巻き時計の高級ラインを復活させてから今年でちょうど30年。この間に生まれた名作は数知れない。そんな多くのアイコンウォッチの中から、時計コレクターとして名高い白苺氏が特に勧めるモデルを紹介する。
白苺:文
Text by Shiroichigo
機械式グランドセイコーの復活
1980年代終盤から90年代初頭にかけて、機械式時計は世界的にその地位を回復させた。セイコーはクォーツのヒエラルキーの頂点に君臨していたとはいえ、以前は機械式時計の分野でも一角を占めるメーカーであり、その状況を座して看過するわけにはいかなかったのであろう。グランドセイコーのメカニカルモデルを製造する「雫石高級時計工房」の記載によれば、88年に「15年間休止していた高級機械式時計復活に向けての活動を再開」させた。そして91年にセイコーの創業110周年を記念して超薄型68系を搭載した「クレドールu.t.d.(Ultra-Thin Dress)」を生産したのを皮切りに、機械式高級時計への復帰を模索し始めたのである。
当時でもセイコーは機械式ムーブメントの製造を継続していた。しかしそれは主に「電池入手が困難な発展途上国向け」に製造を続けていた、「セイコー5」や「メカニカルダイバー」が搭載していた7000系自動巻きであった。7000系ムーブメントは1990年代に改良されて7Sとなり、その後さらに改良され6R/4Rへと発展し、今でもセイコーのリーズナブルな機械式時計のラインを支える優秀で、極めて重要なムーブメントとなった。
とはいえ、なにぶんこのムーブメントは実用本位であり、ニッケル製テンワやあまりにも実用的な仕上げを伴わないブリッジ(受け)など、見栄えでも精度の点でも高級時計を主張するには厳しいものがあった。そのためセイコーは高級機械式時計の再興のために新しいムーブメントの開発に取り組んだ。
“しかし当時のセイコーの設計者は新型クォーツムーブメントの開発に注力しており、機械式に人員を割くことはできない。そこでマイクロフィルムに残された古い設計図面を紐解きCAD データに置き換えることを試みた。しかし、古い設計図面に記された数値・寸法は、最新のCAD データには適用できないことも多かった。新型機械式ムーブメントの新規開発のノウハウも薄く、既存のムーブメントを改良することが第一目標となった。
ベースムーブメントとして選ばれたのは、1970年代にキングセイコーに搭載され活躍した52系ムーブメントだった。毎時28,800振動の8振動仕様、カレンダー付きで3.9㎜厚。当時の日本クロノメーター検定協会からクロノメーター認定されていた高性能ムーブメントだ”
「【グランドセイコー、未来へ紡ぐ10の物語】Vol.5 時代を超えて、ふたたび時を刻む伝統の機械式 Part1」より
1992年に発売されたCal.9S35搭載モデル。同作でセイコーは自動巻きの高級時計に復帰した。針やインデックスの出来は現行品に勝るとも劣らない。
こうして完成したCal.4S35搭載モデルは92年に発売された。セイコーは機械式時計復興の第一歩と謙遜するが、筆者の所有する個体を見ると、実物は驚かされるような丁寧な作りをしている。特に文字盤の、分・秒インデックスの厚く丁寧な印刷といった仕上がりは今見ても素晴らしい(率直に言って秒インデックスの仕上がりは新作の「SLGH003」にも見習ってもらいたい)。このCal.4S35を復活の狼煙として、セイコーは4Sのさらなる高精度化を試み、その結果は98年に発売された「クレドール クロノメーター」のCal.4S79に結実した。500本限定のその時計はスイスに送られ、C.O.S.C.クロノメーター検定を得て販売されたのである。
優れた精度を得た4S系キャリバーであったが、その高精度を得るためにヒゲゼンマイに錘を付ける(一見、樹脂のゴミのようなためメンテナンスの際に誤って取り払われることも多い)など、いわば屋根の上に屋根を重ねるようなトリッキーな技法を用いる必要があった。クォーツモデルの成功でグランドセイコーのブランド再興を成し遂げたセイコーであったが、「骨格」そのもの出来を重視するセイコーにとって、機械式の4S系キャリバーはグランドセイコーには不十分とされたのである。
そのため、セイコーは4Sの改良ではなく、新しいグランドセイコー用の機械式ムーブメントを開発した。それが98年のSBGR001と002に搭載されたCal.9S55ムーブメントであった。だが開発者のインタビューなどによれば、Cal.9S55の開発にあたってはとにかく時間がなかった、という印象を受ける。時間がない中で大きな力を発揮したのが当時のセイコーインスツルメンツが開発した3D-CADであったとされている。
“過去の設計資料を参考に歯車の形状の検討や輪列のシミュレーションなどを行い、さらにこのデータを活用してプロトタイプの製作もスピーディに進めた。調速機も新たに開発され、ひげぜんまいの形状も特殊な内端カーブを採用することで、GSの名に値する高精度が実現した。”
「【グランドセイコー、未来へ紡ぐ10の物語】Vol.5 時代を超えて、ふたたび時を刻む伝統の機械式 Part2」より
こうして登場した9S55は当然ながらセイコーのこれまでの機械式の系譜を色濃く継いだものとなった。自動巻機構はセイコー好んで採用する爪巻き上げのマジックレバーである。口の悪いものは9Sを7Sの拡張版、と評した。しかし、筆者は7Sの改良版とするよりは、開発機関の短さもあってゼロからの開発ではなく、その時点でセイコーが持っていたアーカイブを最大限利用した結果、機構が近くなったのであろうと考える。
例えば緩急針調整装置は7Sの古典的なものから、しゃもじ状のアオリ調整が効く専用の物が与えられ、等時性の調整に大きな力を発揮した。7Sはパテント切れの後、エタクロン風の緩急針を採用したことでアオリ調整ができるようになったが、9Sのそれは高級機らしくより強固にされている。また7S系が実用重視であるが故にブリッジの仕上げはざっくりとしているのに対して、9Sでは“トーキョーウェーブ”と言われる美しい波目模様が施された。ストライプパターンをジュネーブストライプでなくトーキョーウェーブと呼ぶのは日本のメーカーがスイスのものとは仕上がりが違うためだ。
筋目模様を施す際に、模様を作る際にスイスやドイツなどが研磨で浅く付けるのに対して、日本のメーカーは切削で施すために筋目が深いのである。それまでセイコーが製造していたムーブメントでは、7Sより上位を狙った4Sでも仕上げは比較的そっけなかった。例えば4Sの手巻き版ではブリッジの上に筋目模様こそ施されていたが、ローターの仕上げは、放射線状のあっさりしたものだった。そのため、全体に美しいストライプを施した9Sは、高級機らしく見栄えという点でも大きな向上を果たしていた。
4S35から9S55への変化で大きかったのは見栄え以上に厚みであった。セイコーは10振動の61系から8振動の56系になる際、ムーブメントの薄型化を行った。機械式復興のモデルとして選ばれた4Sは「ムーブメントが4mmと薄いことが選ばれた理由のひとつ」とされている。実際薄くなった事で4Sはドレッシーな「クレドール」や「ローレル」など、多くのモデルで使用することができた。その一方、薄さがグランドセイコーとして求められる精度や安定性を出すことが難しかった原因となっていたのかもしれない。精度を高めるのに創意工夫が必要だった4Sに対するアンチテーゼとしてか、Cal.9S55は直径28.4mmに対して5.4mmもの厚みを持つ、重厚なムーブメントとなったのであった。
メンズの高級腕時計の魅力。機械式とクオーツ式はどちらを選ぶべき?:アエラスタイルマガジン
腕時計 メンズの高級腕時計の魅力。
機械式とクオーツ式はどちらを選ぶべき?
1本は持っていたい憧れの高級腕時計。繊細な部品で作り込まれた機構の美しさはもちろんのこと、資産としての価値を持つことも魅力のひとつです。この記事では、メンズの高級腕時計の定義や魅力、選ぶときの注意点などについて解説します。 高級腕時計の定義とは? そもそも高級腕時計とはどのようなものなのでしょうか? 明確な定義は存在しないものの、一般的には機械式時計をはじめとする本格派の時計を示します。機械式時計とは、巻いているゼンマイがほどける力を動力源としている時計で、手巻き式と自動巻き式の2タイプあります。 腕時計の歴史は19世紀フランスまでさかのぼることができます。当初は女性用のアクセサリーのような存在で、精度が低かったため、一般的な時計の主流と言えば懐中時計でした。しかし、すぐに時間を確認する迅速性が求められる軍隊での需要に応える形で、機械式腕時計は発展していきます。とりわけ20世紀初頭に勃発した第一次世界大戦は、腕時計が普及する大きなきっかけとなり、その後男性の時計のトレンドは懐中時計から腕時計へとシフトしました。日本でも1930年代、腕時計は懐中時計の生産数を上回るようになります。戦争を契機に発展を遂げた機械式腕時計は、次第に日用品として、さらにはステイタスを示すアクセサリーとして認識されるようになりました。 機械式時計の価格は、素材やブランドによって大きく異なります。たとえば10万円前後で購入できるブランドではハミルトンなどが人気です。30万~100万円ほどの価格帯では、ブルガリ、オメガ、カルティエ、フランクミュラーといった一般的に認知度も人気も高いブランドのアイテムがそろっています。100万円以上のものでは、ロレックス、ウブロ、ハリー・ウィンストンなどのブランドが名を連ね、2001年に誕生した新興ブランドであるリシャールミルのものに至っては、なんと約1000万円以上の価格が付いています。電池で動くクオーツ式腕時計が主流の現代において、機械式腕時計は嗜好性の高い“作品”とも言えるでしょう。 高級腕時計を持つ意味。機械式時計の魅力
時刻を確認するだけであればスマホで簡単にできるにもかかわらず、なぜ機械式時計はいまなお多くの人を魅了するのでしょうか? 細部にまで及ぶこだわりや時を超えて備わる価値など、機械式時計の奥深い世界を探ってみましょう。 芸術品や工芸品のような味わい深さがある 小さなスペースに200個以上の細かい部品が緻密に組み込まれている機械式時計は、まさに職人技の集大成とも言える工芸品。特にメカニカルなものに夢中になる男性の心をくすぐる趣味性の高いアイテムです。その繊細な機構を見ているだけでうっとりとしてしまうという愛好家が多いこともうなずけます。華やかな装飾を施したものや、スタイリッシュな機能美を前面に出したものなど、各ブランドが意匠を凝らしたデザインも注目ポイントのひとつです。機械式腕時計は、独自の個性を放つ芸術品を鑑賞するような楽しみ方もできるのです。 また、現在機械式腕時計のなかで主流の自動巻き式は、腕に装着することで内部のローターが回り、ゼンマイを巻き上げて時計が動きはじめるので、「腕時計を身に着けている人と一緒に時を刻む」という特徴があります。つまり、自分だけの特別なパートナーのような時計なのです。めでるもよし、着けるもよし、機械式時計は実用性だけではないさまざまな味わい深さを備えています。 実用性を超えたさまざまな機能を搭載できる 前述のとおり、機械式時計には職人の高度な技術が込められています。機構の基本は18世紀の昔から変わっていないものの、モジュール的にさまざまな機能を付加することが可能であるため、いくつもの機構のスタイルが生まれました。 そのなかにはひと握りのブランドや時計職人にしか実現できない超絶技巧を搭載しているものもあります。なかでも世界三大複雑機構と呼ばれているのが、重力による誤差を解消する「トゥールビヨン」、鐘を鳴らして時間を知らせる「ミニッツリピーター」、暦に則した日付を半永久的に表示する「パーペチュアル(永久)カレンダー」。複雑機構には、実用性という観点からは必要ではないものもありますが、これらの時計には100万円を超える価格が当たり前のようについています。役に立つことがすべて、はない、こうした嗜好性が愛好家を魅了するのでしょう。 ちなみに「時計史上最も複雑な機械式時計」の記録を持っているのが、ヴァシュロン・コンスタンタンの「リファレンス57260」。直径98ミリ、厚さ50.55ミリと、とても大きな弧の腕時計は、使われている部品の数は2800個以上で、57もの複雑機構を搭載しています。 身に着けることでステイタスを示せる 機械式時計は、長い歴史に裏付けられた伝統や、職人技の集大成。そのため一流のブランド品として価格が高いということは言うまでもありません。しかし、そういった歴史ある高額な腕時計を身に着けることで、一流品への理解や経済力といった社会的ステイタスを周囲に示すことができます。たとえば一般的な認知度の高いロレックスやカルティエなどの腕時計であれば多くの人の目に留まりますし、ハイブランドに詳しい人や時計好きの間での評価が高いブランドのものを身に着けていれば、“わかる人にはわかる一流の機械式腕時計を身に着けている”と一目を置かれることが期待できます。高級腕時計がその他の腕時計と違う点として、ステイタス・シンボルになるということも挙げられるのです。承認欲求が満たされるだけではなく、実際に社会的信頼が得られるというシーンもあるでしょう。 また、こうした高級腕時計を身に着けることで自分に自信を持つことができるようになるという人も多くいます。こうしたことから、高級腕時計はここぞというときに大きな効力を発揮してくれる可能性があると言えます。 世代を超えて末永く愛用できる 機械式時計は、定期的にしっかりメンテナンスを行うことで、何十年にもわたって末永く使用することができます。ひとつひとつ部品を組み合わせて製造されているため、たとえ不具合があっても分解して修理することができるのです。壊れたから買い替えるといった使い捨ての発想ではなく、修理を繰り返しながらずっと大事に使いつづけることで、特別愛着のある時計になっていくに違いありません。 また、よほど複雑な機構や特殊な部品でない限り、長い年月が経っても部品の交換ができるため、自分の時計を子どもや孫の代まで継承していくこともできます。自分とともに人生を歩んだ時計に家族のヒストリーが刻みつづけられていくというのは、機械式時計ならではのロマンチックな体験だと言えるでしょう。 資産価値があり、投資としての側面も持つ 一般的に高級品と呼ばれるものでも、経年劣化などで価値が下がることは少なくありません。しかし機械式時計の場合、修理をしながら使いつづけることができることや、限定生産モデルといった理由で希少価値が高まり、リセール時に購入時以上の価値がつくことが多々あります。たとえば高級腕時計の代表格とも言えるロレックスは、世界的な人気に対して供給が足りておらず、人気モデルほど正規店で買うことが難しいとも言われています。 そういった機械式腕時計は、前述のように家宝として代々受け継ぐ価値もありますし、売却して次に買う時計の資金にする時計愛好家もいます。また、株などのように相場が上がったときに売却して利益を得ることを目的とした腕時計投資なるものまで存在しています。 ただし、機械式時計にまったく興味がないにもかかわらず投資として購入を検討するのはおすすめできません。同じモデルでも製造年度などによって価格に大きな差が出るからです。それでも投資をするのであれば、商材としてではなく、あくまで時計を愛し楽しむ気持ちを持って検討しましょう。 高級腕時計を選ぶときの注意点
機械式時計の魅力を知れば知るほど、手に入れたいと思った方は多いでしょう。しかし、大きな金額の買い物になるので後悔は避けたいところ。そこで、実際に購入する前に知っておきたい機械式時計のデメリットも紹介します。 一日に数秒の誤差が生じる 機械式時計は価格が高いので精度も高いのではないかと思われる人がいるかもしれませんが、機械式時計は電池を使わず部品の物理的な力で動いているため、どうしても一日に数秒の誤差が出てしまいます。ものにもよりますが、一日で-10秒から+20秒ほどであれば許容範囲とされています。時計の扱い方次第でも精度は変わってきます。時計の向きや部品同士の摩擦で誤差が発生することもあれば、気温の変化の影響を受けることもあるのです。また、ゼンマイが十分巻き上げられていない状態だと、ゼンマイがほどけるにつれてトルクが弱まり、精度も落ちると言われています。 一日に数秒の誤差なので日常生活で大まかに時間を確認するだけであれば問題ありませんが、秒単位で正確な時間を測る必要があれば、精度の高いクオーツ式腕時計を選んだほうがよいでしょう。 ゼンマイを巻かないと止まってしまう 機械式時計はゼンマイの力で動くため、定期的にゼンマイを巻かないと動かなくなってしまいます。腕から外して置いたままにしておくと、ものにもよりますが2日ほどで動きが停止しまうのです。自動巻き式のものは腕に着けて活動していれば自然と稼働しつづけますが、腕の動きが少ない場合もゼンマイの巻き上げが不足して止まってしまうことがあります。止まってしまったときは、リュウズ(右側についている小さなつまみ)を奥側に回せば自分で巻き上げることができます。また、ワインディングマシーンというものに入れておけば、使わないときでも止まらない状態で時計を保存できるので便利です。 機械式時計を手に入れたら、肌身離さず身に着けて不具合がないか気を配ったり、久しぶりに着けるときにはゼンマイを巻き上げておくなど、日頃から時計と向き合う姿勢が重要になってくるでしょう。その手間がよりいっそうの愛着を生むと言えます。 メンテナンスの費用がかさむ 機械式時計は作りが繊細なので、ほかの時計と比べて衝撃や振動、磁気に弱いと言えます。こうした不具合や故障の際、修理代が高くなりがちです。また、機械式時計を使う人は3~5年に一度、メンテナンスとしてオーバーホール(分解掃除)を欠かすことができません。オーバーホール代はブランドにもよりますが、1回につき数万~数十万円かかることもあります。 オーバーホールは故障を未然に防ぐ定期点検の意味合いが大きいですが、部品をひとつひとつ組み直すため、すり減った部品を交換したり、機構をリフレッシュしたりすることができます。そのことで精度も上がり、新品のような状態に仕上がるのです。その結果、末永く使うことができ、売却するときの価値も上がる可能性が高くなります。 機械式時計はただでさえ高額であるうえに、さらにメンテナンスにもお金がかかるというのが現実です。そのため、勢いで購入したもののメンテナンスに手が回らなくなり、価値が下がってしまったということにならないように気をつけましょう。 機械式とクオーツ式、どちらを選ぶべき?
ピカソの腕時計が2800万円超え。記録的な結果を生んだ時計オークションを振り返る
世界で行われる時計オークションについての情報をお届けするwebChronosの新連載「グローバルウォッチマーケットからの最新ニュース」。その第1回は、老舗オークションハウス「ボナムズ香港」の時計部門国際ディレクター、ティム・ボーン氏が、2021年に行われた時計オークションについて振り返る。
ティム・ボーン(ボナムズ香港):文
Text by Tim Bourne(Bonhams Hong Kong)
2021年9月11日掲載記事
ティム・ボーン[ボナムズ香港 時計部門国際ディレクター]
20年以上の経歴を持つ高級時計の専門家であり、ボナムズ香港を拠点に活動する時計の国際ディレクター。世界最古のオークションハウス「サザビーズ」が拠点を置くロンドンと香港における時計部門の国際責任者と、クリスティーズの時計部門の国際共同責任者として活躍した後、ボナムズに加わった。
時計市場に変化をもたらした2021年
2021年は、世界の時計市場にとって驚くべき繁栄の年となった。ほぼすべてのオークションで世界記録が樹立され、多くの時計メーカーで新しい価格が設定された。世界規模の時計オークションに参加するユーザーの数も増え続けている。
新型コロナウイルスによるパンデミックが我々にもたらした影響は、世界の人々の行動を制限する反面、これまでオークションハウスとの関わりが少なかったユーザーや時計コレクターを新たに引きつけ、コレクターの間でさまざまなカテゴリーの価格を上昇させるという好影響ももたらした。
経済的なプラス効果だけでなく、コレクターが持つ情報量や知識も大幅に向上している。それぞれのコレクターが購入したいと思うものの幅広さと多様性が、この魅力的な収集カテゴリーを、とても中毒性があり、達成感を感じられるものにした。
意外な結果を残した2本の腕時計
私が第1回のコラムで注目するのは、大きな関心を集めて最終的には記録的な価格となったが、あまり一般的ではないために広く評価されていない可能性のある時計である。ロレックスやパテック フィリップ、オーデマ ピゲ、F.P.ジュルヌなど、今日のオークションで人気のあるブランドの希少なモデルが驚異的な価格で落札されていることは、多くの人に知られている。
そしてこれらは、品質の高さやブランドが持つDNAの強さ、並外れたクラフツマンシップによって、正当な価格であると言えるが、すべてのコレクターが同じものを好むわけではない。究極のコレクターとは、自身でビジョンを持ち、そのテーマに情熱を注いでいるために収集し、膨大な量のリサーチを行っている人のことを言う。
コレクションは人格を反映しており、その人の外向的もしくは内向的な性質を持つ内面がにじみ出るものである。ボナムズの最近のオークションに出品された2本のまったく異なる腕時計は、もともとそれらを所有していたコレクターのひたむきなアプローチを示す完璧な例だった。
ジョージ・ダニエルズ「ミレニアム」(1999年)
71万7500USドル=約7903万円(1USドル=110.16円、2021年9月10日現在、バイヤーズプレミアムを含む、以下同)で落札。
ひとつ目は、20世紀における最も偉大なウォッチメーカーのひとりであるジョージ・ダニエルズ博士が手掛けた腕時計である。 画期的なコーアクシャル脱進機を開発し、この技術的なマイルストーンがウォッチメイキングの一翼を担うようになったことを記念して「ミレニアム」と呼ばれるシリーズを製作するに至った。彼の弟子であるロジャー・スミスと協力し、48本の腕時計を製作した。
1999年に納品されたこのモデルを入手することができた48人のコレクターは、幸運にも現代の時計製造の歴史の一部を手にすることができたのだ。このロットが2カ月ほど前にオークションに出品された時、予想通り非常に高い競争率だったが、最終的に71万7500USドル(約7903万円)というこのモデルの世界記録を樹立した。
パブロ・ピカソが「Michael Z.Berger」に製作を依頼した「ピカソウォッチ」(1960年頃)
25万8000USドル=約2841万円で落札。
ふたつ目の情熱的なコレクターの腕時計は、マスターウォッチメーカーとはまったく別の分野で、5月にパリのサロンで開催されたオークションに出品されたものだ。この腕時計は機械的にもブランド的にも金銭的価値はほとんどなかったが、非常に魅力的な歴史を持っており、20世紀で最も偉大な画家のひとりであるパブロ・ピカソが着用していたものである。
文字盤の12カ所にピカソの名前が一文字ずつ配されており、さらには彼がアートセッションの際にこの腕時計を着用している写真も添えられていた。この腕時計は、何の根拠もなければ約50USドルの価値しかなかったが、その根拠と歴史、そして魅力的なストーリーとともに出品されると、たちまち非常に収集価値のあるものとなった。アートコレクターたちによる15分間の入札争いの後、当初の落札予想価格の約20倍にあたる25万8000USドル(約2841万円)で落札されたのだ。
このふたつの時計収集の例から分かるのは、所有者が持つ考え方に対する大きな自信と、コレクションを形成するために必要なひたむきな知識である。ふたりのコレクターは多くの人に好みを合わせるのではなく、情熱を持って自身のコレクションを作り上げていたのだ。
西部開拓時代を物語るふたつの懐中時計
8月に開催されたオークションでは、アメリカ映画「ワイルド・ワイルド・ウエスト」の初期の記念品を熱心に収集していたジム&テレサ・アール夫妻のコレクションから出品されたふたつの懐中時計が、どのような成果を上げるかが注目された。
ひとつはアメリカ西部開拓時代に活躍したガンマン、パット・ギャレットが所有していたもので、伝説の無法者ビリー・ザ・キッドを裁いた際に贈られた懐中時計。もうひとつは、アメリカ西部開拓時代の象徴的な人物であるバッファロー・ビルの名前が刻印された銀製のポケットウォッチだ。
(左)パット・ギャレットの懐中時計、リンカーン市による贈与
落札予想価格:3万〜5万USドル(約330万〜550万円)
※落札価格未公表
(右)バッファロー・ビルのシルバーコイン懐中時計
落札予想価格:8000〜1万2000USドル(約88万〜132万円)
1万4025ドル=約154万円で落札。
もしあなたが時計コレクターであるならば、自身の判断を信じて、できるだけ多くのリサーチを行い、自分の収集テーマや哲学を貫き、情熱を持って経済力の範囲内で購入してほしい。その価値は十分にあるだろう。