菊地の【ロレックス】通信 No.079|異彩を放つ “チェリーニ プリンス”。意外に値ごろ感も!
今回はロレックスが創業100年を迎えた2005年に復活を果たしたものの、2016年頃だったと思うがロレックス公式サイトから姿を消してしまった角形時計、チェリーニ プリンスを取り上げてみたい。
あまり時計のことに詳しくない方のために、まずプリンスとはどのような時計なのかについて簡単に触れておきたい。プリンスは1929年(28年とも)から50年代まで製造されたロレックスの手巻き角形時計である。掲載した当時の写真を見てもらえればわかるが、角形ケースというだけでなく、時分針とは別にスモールセコンド(秒針)を6時位置に備え、しかも、そのスモールセコンドを大きくして見やすくしている点が最も特徴的だ。
1940年頃に製造された当時のプリンス。6時位置にこれだけ大きくはっきりとスモールセコンドを独立させた仕様は、プリンスが初めてだった
そして、このスモールセコンドが医療関係者にとって脈拍などを計測する際に重宝したことから“ドクターズウオッチ”の愛称が付いた、まさにロレックス史上にその名を残す歴史的なモデルのひとつだ。
ロレックスはこの歴史的なモデルを100周年の記念すべきメモリアルモデルとして、かつて手巻きシリーズ(現在はモデルチンジして自動巻きとなった)として展開されていたチェリーニコレクションに属するモデルとして、4種類のデザインがリリースされた。
右からRef.5440/8、Ref.5443/9、Ref.5442/5、Ref.5441/9。各モデルの詳細は本文後半に記載
さて、このチェリーニ プリンスだが、ご覧のようにアールデコ調の雰囲気を残しつつも、かなり現代風にアレンジしたデザインが施されている。しかも最大の特徴はロレックスで唯一、シースルーバックが採用されている点だ。
そして、このために開発された約70時間パワーリザーブを誇る手巻きの角形ムーヴメントには、文字盤の凝ったエングレービングと同様の装飾が受け板にも施されており、その仕上げの素晴らしさを見ることができる。しかもこの手巻きムーヴメントCal.7040には1〜4までの枝番が末尾に加わる。これは文字盤のエングレーブに合わせて地板の装飾もモデルによって変えているからなのだろう。手間のかけ方はさすがだ。
ロレックスの唯一のシースルバックはやはり魅力的。ブリッジを始め、ひとつひとつ丁寧に仕上げられたムーヴメントはCal.7040。約70時間の手巻きムーヴメントは、21石、2万8800振動でCOSCクロノメーター認定
しかしながら、登場した当初こそ話題となったものの、正直なところここ日本においての人気はイマイチだった。恐らくもう少しクラシカルで落ち着いたデザインが採用されていれば多少は違ったのかなあ、とも感じるところもある。そんな筆者でさえ、チェリーニ プリンスの実機を触ったのは3度ほどしかなく、筆者が刊行するパワーウオッチでも過去あまり取り上げたことがない。
そんなわけで当然ユーズドであっても流通量はかなり少ない。また、今回これを書くにあたって、いろいろ調べたところ少ないなりにも販売されているユーズド品にはシリアルD品番が多く見られる。つまり生産が開始された2005年に作られた個体が意外に多いということだ。
さて、当時の定価自体は160万円台と180万円台。ゴールド素材を使用しているということもあるが、なかなかいいお値段。ただ、あまり注目されてこなかったこともあって、現在のユーズド実勢価格は100万円前後とオイスターケース系に比べれば値頃感はあると思う。
とは言え、ロレックスらしからぬ風貌のため好き嫌いのはっきりと別れることも確かではあるが、サイズ的にも大きいわけでもなく、デザイン的にも個性的なため意外に目を引くし、話題性という点では十分。その意味では一般的には優先度は低いモデルではあるものの、100万前後で程度がいい個体であれば、1本こんなドレスウオッチがあってもいいのではないかと、思った次第である。
【Ref.5440/8】K18YG(35.1×28mmサイズ、厚さ10.5mm)。防汗。手巻き(Cal.7040-1)。当時の参考定価167万4000円(消費税8%換算)
【Ref.5443/9】K18WG(35.1×28mmサイズ、厚さ10mm)。防汗。手巻き(Cal.7040-4)。当時の参考定価183万6000円(消費税8%換算)
【Ref.5442/5】K18PG(35.1×28mmサイズ、厚さ10mm)。防汗。手巻き(Cal.7040-2)。当時の参考定価183万6000円(消費税8%換算)
【Ref.5441/9】K18WG(35.1×28mmサイズ、厚さ9.5mm)。防汗。手巻き(Cal.7040-3)。当時の参考定価183万6000円(消費税8%換算)
ブランド腕時計の正規販売店紹介サイトGressive/グレッシブ
2021 New Model | ROLEX
2021年 ロレックス新作情報
「エクスプローラー II」誕生50周年!
ラグジュアリーを身に纏った究極の実用時計
2021年のロレックスは、プロフェッショナルとクラシックの両コレクションで印象深い新作を発表。特に推奨したいトピックスモデルは、前者では1971年の誕生以来50周年を迎えた新世代の「オイスター パーペチュアル エクスプローラー Ⅱ(OYSTER PERPETUAL EXPLORER Ⅱ)」と、約10年ぶりのモデルチェンジでケース径が39mmから36mmへと1953年発表の初代モデルに回帰した「オイスター パーペチュアル エクスプローラー(OYSTER PERPETUAL EXPLORER)」の2モデル。一方、後者では「オイスター パーペチュアル デイトジャスト 36(OYSTER PERPETUAL DATEJUST 36)」の新ダイアルのひとつ、ロレックスを代表するフルーテッドモチーフだ。今回は精度や堅牢性は言うに及ばず、全体を通して高品位なデザイン追求の意思が感じられる。つまり、機能性のみならず“ラグジュアリーな究極の実用腕時計”へと進化という印象を強く残した。
文:田中克幸 / Text:Katsuyuki Tanaka
※表記は2021年4月現在のものになります。詳しくは各メーカーにお問い合わせください。
菊地の【ロレックス】通信 No.082|日本の並行輸入市場とロレックス [第2回:2000〜2009年]
前回の記事では1980〜1990年代のロレックス市場について書かせていただいたが、第2回の今回は2000〜2009年までの10年間を振り返ってみたい。
2000年になると中国など新興国の台頭もあり世界的な時計ブームに拍車がかかり本格化する。日本にも様々なスイスブランドが展開を始め、筆者が刊行するパワーウオッチ(2001年創刊)を始め、時計専門媒体も5誌ほど創刊。多いときにはそれまでの既存誌含めて9誌(現在は5誌)もあったほどだ。それだけ当時の日本の時計市場も活況を呈していたわけである。
並行輸入の時計専門店が増えたのも2000年前後からだ。80年代以降アンティークからスタートした時計専門店に加えて、90年代のブランドブームから生まれた並行輸入品のブランド専門店が、時計ブームを受けて高級腕時計の品揃えを増やし売り場を拡張したり、時計だけに特化した店舗を新たに展開するなどして、さらに増えていったように記憶している。
ロレックスの動きが顕著になったのも2000年を境にだ。毎年何らかの新しいモデルを発表するようになり、その存在感をさらに強めていったのである。
左が自社ムーヴメントを搭載し2000年に登場したデイトナのRef.116520、右がゼニス社のエル・プリメロを搭載するRef.16520。前者はインダイアルの位置が若干上に移動している点とスモセコと12時間積算計の位置が逆になった
その口火を切ったのが、2000年発表のデイトナ、Ref.116520である。外装自体はそれまでのデイトナとほとんど変わらなかったが、ロレックス初となる自社開発の自動巻きクロノグラフムーヴメント、Cal.4130が搭載された。
1930年代から自動巻きムーヴメントを自社で開発し完成度を高めてきたロレックスが、自動巻きクロノグラフに限っては、1999年までは他社製を使用していたことを意外に思われるかもしれないが、それだけ開発には慎重だったということだろう。Cal.4130の完成度とその先進性は極めて高い(何が凄いかは別の機会に取り上げたい)。
そして、この翌年にはムーヴメントの耐久性が強化されてエクスプローラー I とサブマリーナーのノンデイトタイプがマイナーチェンジ。03年にはサブマリーナー誕生50周年を祝した記念モデルとして、ベゼルにロレックスのコーポレートカラーであるグリーンを採用したサブマリーナーデイトを発表して大いに話題を呼んだ。
2003年に登場したロレックスのコーポレートカラーであるグリーンが採用されたサブマリーナーデイト。サブマリーナー誕生50周年を記念してラインナップに追加された
その後も、04年にGMTマスター II がフルモデルチェンジし現在のデザインとなった。このデザインが評判となり07年に登場したステンレスモデルは一躍人気モデルに浮上する。
また、デイトジャストのリニューアルに伴い、同ラインにターノグラフ名を復活。05年にはブランド創立100周年にちなんでドクターズウオッチの愛称で知られる往年の名作、プリンスをチェリーニラインに復活させた。加えて07年には1000ガウスの高耐磁時計、ミルガウスをリリースするなど2000年代はまさに復活ラッシュとなったこともこの年代の特筆すべき点と言える。
往年の名前が復活した。左から、ミルガウス、チェリーニ プリンス、デイトジャスト・ターノグラフ
これによってロレックスファンならずとも毎年何が出てくるのかが話題になり、新作が発表されると雑誌などのメディアも大きく取り上げた。そして、これは当時の実勢価格にも影響を与え、新作モデル=プレミアム価格化という異常な状況を生み出してしまったのである。
もちろん、この時代の並行輸入市場では、デイトナ以外のほとんどのスポーツモデルの実勢価格は定価よりも2割ぐらい安かった。まさに手の届く高級品だったこともロレックス人気を支えていたことは明らかだ。しかし、これに加えて、こうしたニューモデルを小出しにしながらファンの心を引き付ける。ロレックスによる巧みとも思える戦略も人気を加速させていったことは言うまでもない。
ちなみに、日本の並行輸入市場とはあまり関係のないことだが、実は2000年台前半までロレックスを名乗る会社は2社存在した。ムーヴメントを製造するロレックス・ビエンヌとハンス・ウィルスドルフが創業したロレックスSA(通称ロレックス・ジュネーブ)である。この2社は2004年にロレックスSAに統合される。ちょうど100周年を迎える1年前のことだ。
2007年に登場したヨットマスター II 。デイトナ用に開発された自動巻きクロノグラフムーヴメント、Cal.4130に改良を加えて、独自のカウントダウン機能が装備されたCal.4160を搭載する
この統合の成果として現れたのが、2000年代前半から加速した新製品ラッシュだと言われている。しかも、これまでは頑なに複雑機構をムーヴメントに搭載してこなかったロレックスが、2007年発表のカウントダウン機能付きクロノグラフ、ヨットマスター II に象徴されるように、この統合を機に様々な独自の機構をムーヴメントに載せて複雑化するようになったのだ。
こうして空前の時計ブームを迎えていた2000年代。デイトナは2008年の北京オリンピックが開催された夏頃に140万円まで上昇し、デイトナ史上ではそれまでの最高値を記録した。しかし、その直後に起こったリーマン・ショックで状況は一変する。
さて次回は、2010から現在までをお届けする。
【2000〜2009年に発表された注目モデル】
2000年 コスモグラフデイトナ(Ref.116520)
2001年 エクスプローラー I (Ref.114270)、サブマリーナー(Ref.14060M)
2003年 サブマリーナー(グリーンベゼル、Ref.16610LV)
2004年 デイトジャスト ターノグラフ、
2005年 GMTマスター II 、チェリーニ プリンス
2007年 ミルガウス、ヨットマスター II
2008年 ディープシー
2009年 デイトジャスト II