星野 源、変わり続けるために──人と時代のただなかで、彼の音楽は鳴り響く
〝キュン〟ではなく〝ギュン〟
東京の桜が満開を迎えた、ある麗らかな春の夜のこと─東京・有楽町にあるニッポン放送内の会議室で星野源、その人を待っていると、廊下から大きな笑い声が聞こえてきた。この日は『星野源のオールナイトニッポン』の放送日。ラジオスタッフとの生放送前の打ち合わせが盛り上がっているのだろうか。ほどなくして、インタビュー場所の会議室に入ってきた星野源は、すっきりとした朗らかな表情を浮かべていた。4月20日から放送のTVドラマ『着飾る恋には理由があって』の主題歌の制作がようやく山場をこえたのだという。
「 キュンとするラブソングをお願いしますという依頼がドラマ制作側からあったので、ラブストーリーにおけるラブソングっていうものを真正面からやりたいと思って作ってます。でも、どっちかっていうと〝キュン〟
っていうより〝ギュン〟って感じのサウンドに今のところなってますね(笑)。ど真ん中を目指してるんですけど、自分のど真ん中って感じです。歌詞も今までよりもすごくストレートなものになるんじゃないかな」
ダブルのジャケット¥357,500、半袖シャツ¥100,100、スラックス¥121,000(すべて予定価格)〈CELINE HOMME BY HEDI SLIMANE/セリーヌ ジャパン〉
自宅やレコーディング・スタジオに籠もり、昼夜を問わず楽曲を作り続ける日々、その上、ラジオの生放送や雑誌の取材まであって、この人はいわゆる〝人間らしい生活〟をできているのだろうかという疑問が湧き上がる。「うーん、全然できてないですね(笑)」と、冗談めかして笑う星野。しかし、ふと考え込むような表情をみせた後、「でも──」と、続けた。
「人間らしい生活っていうと、生活をよりよく豊かにしよう、みたいな方向になりがちだし、その考え方もわかるんですけど、仕事だって十分人間らしい営みというか、まさに人間そのものじゃないですか? やりすぎたらダメなのはもちろんなんですけど、自分の意志で何かを生み出したり、もっといえばお金を稼ぐことって、すごく尊いことだと思うんです。仕事を頑張っていることって、堂々と誇っていいんじゃないかなって僕は思うんですけどね」
〝何かがありそうだぞ〟って
いうのを感じながら、
そこにたどり着くために
今の自分を脱いで
いかなきゃいけない
自分をハックする
インストゥルメンタル・バンド、SAKEROCKのリーダー及びギタリストとしてキャリアをスタートし、2010年にソロ・デビュー。音楽家・俳優・文筆家として、日本のポップ・カルチャーのマイルストーンとなる仕事44=作品を数多く手掛けてきた。
2020年の主な活動に限って振り返ってみても、その活躍は目覚ましい。コロナ禍の最中に「うちで踊ろう」を急遽発表。ソロデビュー10周年も迎え、配信ライブ『Gen Hoshino’s 10th AnniversaryConcert 〝Gratitude〟』を開催。TVドラマ『MIU404』や映画『罪の声』では主演を務め、11月には「GQ MEN OFTHE YEAR 2020」で「INSPIRATION
OF THE YEAR」を受賞。年末には『紅白歌合戦』にも出場し、「うちで踊ろう(大晦日)」を披露した。まさに八面六臂の働きぶりである。
自他ともに認める、誇り高きワーカホリックである星野は、自身のエッセイ集『そして生活はつづく』(2009)に「生活というものがすごく苦手だ」と記している。そして「生活を面白がれるようになりたい」とも。今年1月28日に40歳を迎えた星野は、12年という月日を経て、ようやく仕事と生活の「折り合い」をみつけはじめているようだ。
コート ¥251,900、Tシャツ ¥53,900、パンツ ¥129,800〈すべてMaison Margiela/マルジェラ ジャパン クライアントサービス〉 ブーツ ¥148,500〈Calmanthology/カルマンソロジー〉
「昔から制作を始めると、夢中になってずっとやり続けちゃうんですよね。だから、最近は外的な要因を作ることで自分をハッキングしてるんです。例えば、朝起きたら白湯を飲むって決めてちゃんと毎朝飲むとか、曲作りに根を詰めすぎて歯止めが効かなくなりそうな時はあらかじめ出前を頼んでおいて、ご飯が届いたら一旦作業を中断して食べる時間を作るとか。逆になかなか仕事が始められなさそうだなと思ったら、少なくともパソコンだけは立ち上げておいて、いつでもそこに座って作業できるようにしておくみたいなことを意識してやっています。いや、本当に超基本的な普通のことなんで恥ずかしいですね(笑)。40歳にして、ようやく自分のコントロールの仕方がわかってきました」
星野のラジオを聴いたり、インスタグラムの本人のアカウントを覗いてみると、そんな多忙な日々の中でも彼がさまざまなジャンルのカルチャーに積極的に触れながら、自らを柔軟にアップデートしていることに驚く。『呪術廻戦』や『SHIROBAKO』など、好きだというアニメについて熱く語り、#Black Lives Matterや移民をめぐる問題などのソーシャル・イシューに関してドキュメンタリーや書籍で学んだプロセスをシェアする。星野は一体どうやって時間を作り、そして、なぜ貪欲なまでに自らを更新し続けるのだろうか。
「自分でもどうやって時間を作ってるのかは、正直、よくわからないです(笑)。やろうと思ってやってるわけじゃなくて、そういう波が時折、打ち寄せてくる感じなんですよね。昔から何かに興味を持つと、それをグッと掘り下げて、時間も忘れて調べ始めちゃう癖があって。でも、自分が好きなものとか自分ひとりで考えていることって限界があるなとも思うんです。だから、友達から熱くオススメされたものは、なるべくチェックしようとはしてますね。そもそも自分の世界っていうものをそんなに信用してないんです。凝り固まっている自分っていうものを外的な何かで全部破壊してもらいたいっていう欲望があって。崩された後に残るものこそが、自分の中の、逃れられない何かなんじゃないかなって思うんですよね」
ダブルのジャケット¥357,500、半袖シャツ¥100,100、スラックス¥121,000(すべて予定価格)〈CELINE HOMME BY HEDI SLIMANE/セリーヌ ジャパン〉
やりたいことをただやる
デビュー以来、星野源は自身のサウンドやイメージというものを常にラディカルに刷新し続けてきた。インディー・ミュージック・シーンの雄から、誰もが知る国民的歌手へ。フォークやアメリカーナなどの朴訥としたギター中心の音楽性から、思わず身体を動かさずにはいられないダンス・ミュージックやブラック・ミュージックのグルーヴへ。
今年2月にリリースされた楽曲「創造」は、そんな星野の最新モードを体現している。「スーパーマリオブラザーズ」の35周年テーマソングとして提供したこの曲は、ジャズやダンス・ミュージックなど星野のルーツにあったサウンドをさらに深化させつつ、そこからフュージョンやチップ・チューン、ハイパー・ポップなどの、これまで彼のディスコグラフィーでは聴くことのなかった音にまで、その音楽的創造性を飛躍させている。星野源という音楽家のシグネチャー・サウンドを更新するだけでなく、日本のポップ・ミュージックの風景を疾走しながらまったく新しいものへと塗り替えていく傑作だった。
楽曲とともに発表されたアーティスト写真では、爪にシックな色合いのマニキュアを塗り、力強さと繊細さを併せ持ったデザインのリングやバングルを身に着け、知性が薫る色香を漂わせたヴィジュアル・イメージを披露して、ファンを驚かせた。
大胆不敵にして、挑発的なメタモルフォーゼ。それを今の星野源は恐れない。
「自分は飽き性なところがあるので、同じことをずっとやるっていうのがそもそも苦手なんです。新鮮な何かをどうしても求めたくなっちゃう。でも、変化を嫌うファンの人がいるのも知っているから、これまでは〝変わり続けることって面白いよ〟っていうのをなるべく丁寧に伝えて〝一緒に変わっていこうよ〟って促していたんですけど、最近は自分のやりたいことをただやるってことでいいのかもなって思っていて。コロナ禍を経て、変化というものに対して社会の意識が変わりつつあると思うんですよね。このままじゃいけないなって、みんな思っている気がするんですよ」
だが、実際のところ「変化し続ける」ということは、言葉で言うほど容たやす易いことではないはず。思い込みや盲信で間違った道に足を踏み入れてしまうこともあるだろう。星野源のように軽やかに、自由に変化を自分のものにしていくためには、どうしたらいいのだろうか。
半袖シャツ ¥100,100、スラックス ¥121,000(ともに予定価格)〈CELINE HOMME BY HEDI SLIMANE/セリーヌ ジャパン〉
彼は「身の回りのスタッフのおかげで成り立ってるんだと思いますよ」と、謙虚に言いよどむ。
「でも、執念深いっていうのはあると思うんですよね。イメージする何かがたしかにあって、そこにたどり着くためには、〝まぁ、これでいっか〟では満足できない。めんどうくさいとか無理かもって毎回思うんだけど、面白そうっていう思いがそれに勝るとやらずにはいられなくなる。あと大抵の場合、そのイメージする何かって自分の内側じゃなくて、外側にあって。〝何かがありそうだぞ〟っていうのを感じながら、そこにたどり着くために今の自分を脱いでいかなきゃいけない。その過程の中で自分が本当に変わっていく──そんな感覚な気がしますね」
生放送まで、あと30分。示唆に富む言葉と爽やかな笑顔の残像を残して、慌ただしく去っていた星野は、インタビューの最後の瞬間まで真摯に自身の思索と挑戦の過程を語った。
仕事や生活に一つ一つ全力で取り組みながら、自らの外側にたしかにある「何か」にたどり着こうと全力で挑み続けること──。混沌とした先の見えない今を必死で生き抜きながら、それでも笑顔で前へと進もう・変わろうとする人と時代の、そのただなかで、そして、気がつけばふと隣りあったすぐそばで、彼の音楽は鳴り響く。
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PROFILE
星野 源
音楽家・俳優・文筆家
1981年埼玉県生まれ。2010年1stアルバム『ばかのうた』にてソロデビュー。代表作にアルバム『YELLOW DANCER』『POP VIRUS』など。「GQ MEN OF THEYEAR 2020」インスピレーション・オブ・ザ・イヤー賞を受賞。2021年2月にスーパーマリオブラザーズ35周年テーマソング「創造」をリリース。現在放送中のTBS火曜ドラマ「着飾る恋には理由があって」の主題歌『不思議』が大ヒット中。6月23日には、3年4カ月ぶりに4曲入りシングルパッケージ『不思議/創造』がリリースされる。
Photos 秦 淳司 Junji Hata / Styling TEPPEI / Hair&Make-up 高草木 剛 Go Takakusagi@VANITÉS Words 小田部 仁 Jin Otabe
“SHERO"の輝きは、今も鮮烈に。ふたりのNANA 2021 - ファッショントピックス
多くの人々の心を熱狂させた漫画『NANA』(集英社)。夢や理想の愛の形を求めて、不器用ながら、懸命にもがくふたりの姿は今もきらめいている。時を経ても色あせない、永遠の"SHERO"であるふたりが、2021年モードの世界にダイブした。 ©矢沢漫画制作所/集英社
強い絆でつながるふたりの"NANA"。今も楽しげに、夜通し語らう 静かに情熱を燃やしながら、夢を追いかけ上京したナナと奈々。偶然出会った性格、見た目も正反対の彼女たちが暮らす「707号室」をのぞくと――。 (右・ナナ)ユース世代のフレッシュな輝きをテーマに作られた今シーズンのセリーヌ。タフなバイカージャケットには繊細なチュールを施したビスチェを合わせて。
ジャケット¥682,000・中に着たビスチェ¥192,500・デニム¥89,100・ベルト¥59,400・ネックレス¥104,500・靴¥121,000
(左・奈々)天真爛漫な奈々の心を映すガーリーな小花柄ドレスを。
ドレス¥275,000・ブレスレット¥66,000・バッグ¥456,500・ソックス¥12,100・サングラス¥45,100・靴¥105,600(すべて予定価格)/セリーヌ ジャパン(セリーヌ バイ エディ・スリマン)
唯一無二のパートナーに捧ぐ。部屋に響き渡るのはパワフルな歌声 カーディガン¥302,500・中に着たトップス¥148,500・パンツ¥302,500・バングル¥93,500・ソックス¥24,200・ロングウォレット¥126,500・ハット¥59,400・サンダル¥154,000/グッチ ジャパン(グッチ) バンド「BLACK STONES(ブラスト)」のメインボーカリストであるナナ。部屋でこっそり行うシークレットライブの装いにも彼女らしさを。色鮮やかなスパンコールをちりばめたスタイリングで華やかに。その歌声に耳をすませるのは相棒の奈々だ。
パワー全開で幸せの形を模索中! 心打つのは、前向きな姿に映るピュアネス コート¥572,000・トップス¥89,100・スカート¥101,200・ヘアピン¥27,500・ピアス¥44,000・スマホケース¥24,200(すべて予定価格)/ミュウミュウ クライアントサービス(ミュウミュウ) 理想の愛の形を追求しながら奔走する、ポジティブな奈々。夢に向かって全力投球の彼女は今日も恋人からの連絡を待ち続ける。そんな"ハッピーマニア"がまとうのは「IMAGINARY SPORTS PALACE」をテーマにした今季のミュウミュウ。大小さまざまなビジューに彩られた襟元が、愛らしさをプラスする。
見つめる先は違えども、 心に宿るは自由なマインド 悩みを打ち明け、深まる絆。今日も寄り添い、語り合う。 (右・ナナ)上海にある庭園、豫園で発表されたランバンのコレクションより。メタリック加工を施したゴールドのコートを羽織り、エッジィに。
コート¥584,100・ニット¥132,000・バッグ¥530,200/コロネット(ランバン) ネックレス¥202,400/エドストローム オフィス(シャルロット シェネ) サングラス¥46,200/GR8(GENTLE MONSTER) タイツ¥2,200/ぽこ・あ・ぽこ (左・奈々)デザイナーが出会った世界中のハンドメイドにまつわる思い出に着想を得た今シーズン。可憐なフラワープリントのドレスでロマンティックな佇まいに。ドレス¥70,400・ネックレス¥36,300・ミニバッグ¥47,300・スカーフ¥15,400・靴¥55,000/トリー バーチ ジャパン(トリー バーチ) ヘアクリップ(2個セット販売)¥5,500/RHC ロンハーマン(バレット スタジオ)
揺らぐ魂に寄り添うのは、やさしさと強さを兼ね備えるバディ スカート¥227,700/ドーバー ストリート マーケット ギンザ(チョポヴァ ロウェナ) 中に着た長袖トップス¥42,900/CLIFF co.ltd.(FUMIKA_UCHIDA) Tシャツ¥13,200・上に着たニット¥16,500/シティショップ(パロマウール) チョーカー¥3,080・ネックレス(チェーン)¥3,520/NEVERMIND THE XU タイツ¥3,300・上にはいたレースアップ靴下¥1,100/ぽこ・あ・ぽこ 靴¥13,200/ユナイテッドアローズ 青山 ウィメンズストア(スイコック フォー ユナイテッドアローズ) ステージ上の激しいパフォーマンスで軽やかに翻る、プリーツスカートが主役。どこか不安定な部分をのぞかせる彼女が強く生きるため、"鎧"としてのユニフォームだ。
自由に、どこまでも。きらめく、ガール・ミーツ・ガールの物語 欠けている部分は補い合い、苦難に対峙するふたりの"NANA"。互いへの憧れと、心からの信頼が、永遠の"SHERO"たちをつなぐ。 (右・奈々)ドレス¥75,900/コム デギャルソン(ノワール ケイ ニノミヤ)ヘアクリップ¥550/OTOE ボーダーニーハイソックス¥1,320/ぽこ・あ・ぽこ (左・ナナ)ニット(メンズ・販売時はダメージ加工なし)¥62,700・スカート¥111,100/マルニ ジャパン クライアントサービス 中に着たブラ¥4,730/エイチ ビューティ&ユース(エバージェイ)ハーネス¥81,400/GR8(rokh) リング¥84,700/エスケーパーズ(ソフィーブハイ) 靴¥64,500(輸入関税込み・参考価格)/ファーフェッチ カスタマーサービス(モリーゴダード) ストッキング、チュールスカート/スタイリスト私物 SOURCE:SPUR 2021年6月号「“SHERO"の輝きは、今も鮮烈に。ふたりのNANA 2021」
photography: Takako Noel 〈L MANAGEMENT〉 styling: Fusae Hamada hair: Mr.Tomik make-up: YUKA HIRAC 〈VOW-VOW〉 model: MANAMI, SHEN TANAKA cooperation: RIBON COMIC